俺の浅い4コマ史に残るクール少女漫画 〜新井理恵 『× -ペケ-』〜

×(ペケ)(7) (フラワーコミックス)

 全7巻で、単行本の発売時期が92〜99年。
 俺が中学二年生の頃、何かのきっかけでクラスの男子の間で爆発的ブームになった少女(4コマ)漫画。本当に何がきっかけだったか思い出せないんだけど、たしか一巻を誰かが持ってて、みんなで回し読みして流行ったんだったと思う。二巻以降はハマッたやつが高い金払って買いだして(800円)……と、そんなんだったと思うが、仮にも少女漫画であるこの作品を最初に持ってたやつはなんだったんだろうな。いや、「男のくせに少女漫画を〜」なんて話じゃなく。


 作品の舞台は高校で、ターゲットもその年代だったのだろうと思うのだが、少女マンガすらまともに読んだことのない時分に読んだせいかやたら衝撃的だった。まぁ中学生くらいのときって青年誌とか読み出したりする年代だし、転換期というか、子ども向けでないものに手を伸ばす時期で、そうした衝撃を受けやすい年頃だとは思うのだけど、自分にとっての本作もその例に漏れず、4コマとしてはたぶん『あずまんが大王』くらいの衝撃はあったんじゃなかろうか。


 4コマって、最後のオチで大げさにリアクションとったり派手にツッコんだりするアッパー系と、ツッコミを避けたりボケをクールに流したりするダウナー系とに分類できると思うんだけど、本作はもう圧倒的後者で、思えば初めて「クール」という概念に出会った作品だったかもしれない。一部のアレなキャラ以外はほぼ全員がすげー冷めてて、物怖じせず、表情一つ変えず冷静にツッコむ作品だった。
 それが新鮮で、格好良く思えて、変な憧れを覚えたりしたものだ。 
 なんだか妙に学校に行くのが楽しみになるような作品で、ここらへんの影響なのか、「やっぱ学園物は学校に行きたくなるような内容じゃないとダメだよなー」という基準が俺の中にある。


 一番のポイントはそのクールさだったのだが、とにかくすべてが衝撃的だった。
 当時の自分の中では絵が上手かったし、男もイケメンだったり、ちょっとエロい部分もあったりしたし、4コマなのにデフォルメ少なめだしセリフすげー多かったり、それに加え少女マンガの空気もあったりして、いろいろ感動してた記憶がある。もちろん、ギャグのセンスもずばぬけてた。ネガティブでクールでブラックでシニカルな作者の視点が独特だったし、馬鹿なことやるイケメンってのも当時は新しかったんじゃないかと思う(美女も馬鹿なことする)。少女マンガの絵柄でネタはブラック……ってのがセールスポイントだったのかもしれない。


 作者の新井先生もそうとう若かったんじゃないかと思うけど、どんな学生時代送ってたんだろうという疑問がいまだにある。単純に根暗なオタクグループに属するようなタイプだったわけではなさそうだ。よくはわからないがとにかく、圧倒的な同姓嫌悪のオーラだけはひしひしと感じられた。最近描いてた作品も無料で見れたときに見てみたんだけど、やっぱりなーと再確認した感じ。
 同姓の、女の、醜い部分が嫌で嫌で目に付いて目に余ってムカついて仕方ないって感情があって、それを誰かにグチる代わりに原稿にぶつけてネタにしてるイメージがある。というのは俺の勝手な印象だけど、読んだことある人はわかってもらえるんじゃないだろうか。
 中学生男子の間で受けてた少女マンガって、どんなだよって思われたかもしれないけど、根本的にそういう感じだったので、営業的なターゲットはともかく、作品としてはむしろ男の方を向いていたように思うし、俺らの間で流行ってたのってわりと自然な現象だったんじゃないかと思うわけである。




【余談】
 古い作品だし、未読の人に薦められるものではないかもしれないけど、いまはKindle版とか出てるっぽいので十分に入手は可能。自分じゃもう客観的に判断できないんだけど、ギャグのセンスもたしかで、今でも読める作品だと思うんだよなー。
 俺の人生の中では『あずまんが大王(単行本一巻が2000年)』がでるまで本作が「すごい4コマ」の地位を守っていたので、面白い4コマとか研究したい人には一見の価値がある作品だと思う。間違いなくオリジナリティがある作品。
 これより後にでた『B.B.Joker』って作品なんかは完全に本作の同タイプで、男性原作と女性原画を組み合わせることで同じような「少女マンガ絵のブラックシニカルギャグ」をやっていたんだけど、二匹目の泥鰌を狙っていたのかはともかく*1、完全に劣化版だった。この件についてはすげー誰かと話したいんだけど共感してくれる人いねーかな。言葉遊びからネタ作るような浅い創作法はやっぱダメだと思った。センスの違いでこうまで差がでるんだなーと。
 最後なんか嫌味な感じになってしまったな。

*1:本作が泥鰌と呼べるほどヒットしていたかは不明だが