『3分間のボーイ・ミーツ・ガール』感想

ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール (ファミ通文庫)

 本はたくさん読みたい。しかし、がっつり読むには時間や精神的余裕がない。
 という理由からそれほど読みたくもないショートショートや短編に手を伸ばすことがわりとある。一日一本ずつなら負担にならないのではとか思うわけだが、長編を少しずつ読み進めるのとどう違うのかというと答えられないので実際の効果は疑問だ。もっと読んでおくべき名作傑作がごまんとあるのだからそちらを読むべきではという気もするのだが、「短い話は嫌いじゃないし」と自分を納得させている。


 加えて最近は、ラノベなるものをもう少し積極的に読んでみようかなという気持ちでもあったので本作を手に取る。しかしどうしてこう微妙なタイトルばかり感想書くのか。
 タイトルどおり、「三分間」と「ボーイ・ミーツ・ガール」がお題となった競作である。全19篇。
 ネタバレあります。

詰め込み教育の弊害と教室の片隅に彼女』日日日

 初日日日。俺の中で入間人間と似たカテゴリにあって、どちらも気になっていた(入間人間は最近一冊読んでみた)。アニメ化作品も多い著者だが、ほぼ見ていない。
 癖が強いと聞いていたが普通に読める。短編だからキャラが濃くないのだろうか。
 「三分毎に記憶がリセットされる」「テストを埋めていくと記憶が回復していく」という記憶喪失の設定が面白い。

『ガチで人生が決まる面接に行ってくる』庵田定夏

 まっとうな作品。高校入試の面接で超緊張してたら、同じように待ってる人が自分以上に緊張してて、ちょっとずつ話してるうちに……という。
 「面接は三分間の印象で決まる」という話に引っ掛けている。

『三分間の神様』榊一郎

 「毎日三分間通話できる」。
 「何で勉強なんてしなきゃいけないんだ。役に立たないのに」に対する回答として「役に立つ実感があれば嫌いだった勉強も面白くなるよー」と返している。
 まぁ、興味持って勉強できたら幸せだよね。
 しかし、本当は現代の女の子であった姫ちゃんは、長篠の戦いの戦術とか聞かされてどう思ってたんだろうね。
 「夢の中の私はすごい感動してたけど、べつにたいしたことじゃないよね」てならね?
 夢の中の姫が好意を持つのはわかりますが、夢から覚めた姫ちゃんが好意を持ち続けてるのはちょっと微妙に思う。
 人のために真摯に頑張ってた奴ではあるから惚れてもいいんだけどさ。

『お湯を注いで』櫂末高彰

 カップラーメンにお湯を注ぐと、蓋の上にカップラーメンの妖精が現れる。そんで、「カップラーメンばっか食べちゃダメよ、もっと野菜を摂らなきゃ」とか言ってくる。三分経ってカップ麺ができあがると消える。主人公くんは妖精に会いたいがためにカップラーメンばっか食べる。
 「三分間だけ話せる」という作品は多くあったのだが、この作品の三分の必然性は抜群である(五分のカップ麺も出るが)。
 カップ麺の妖精が「カップ麺ばっか食べちゃダメ」とか言って主人公の体とか将来とか心配してくれてるのがすごく良い。
 短くてかわいくて面白い。気に入りました。

『こっちにおいで、子猫ちゃん』野村美月

 『文学少女』シリーズを三巻目で挫折して、作者には苦手意識があるのだが、『ヒカルが地球にいたころ……』というシリーズがAmazon見る限り高評価らしく、ちょい気になる。本作が苦手意識を払拭してくれるかと期待して読んでみたが、不発。この人の書くラノベチックなキャラはいかにもな感じがするというか、「ラノベってこんなもんだろ」的にコマとして動かしてる感じがして苦手かもしれない。「三分早起きする」って話。

ネオンテトラのジレンマ』綾里けいし

 異色のサイコミステリ風。本作だけページいっぱいに文字がぎちぎちに詰め込まれていて、他作品との見た目が違う。敢えての変化球かと思ったが、元々ダーク・ホラーとかそっち系の人らしい。
 「電子レンジでシチューを三分間温める」間の会話劇。「壊れてますよー」「歪んでますよー」みたいなもののテンプレって感じで、まぁつまんなかったですね。

『5400万キロメートル彼方のツグミ庄司卓

 「光速で三分間先の距離にいる相手と会話する」SF話。つまり、三光分=5400万キロ。
 ベタなんだけど、まっとうに面白かったです。ベタい作品を面白く描けるってのはすごいと思う。 

『トキとロボット』羽根川牧人

 SF。バッテリーの無くなりかけたロボットと毎日「三分間だけ話せる」。
 pixivと提携してコンテストを行い、優秀賞を受賞した人の作品。pixivでも見れる
 面白かった。ロボ子が徐々に嫉妬していく過程が良い。
 本作に関してはイラストが優れていたとも思う。いかにもメカメカしいロボの姿と、その彼女と楽しげに話す少年の姿が作品をよりよく補完している。
 現在はプロらしい。

『ロイヤルコーポあさひの真実』竹岡葉月

 「学校まで三分の距離に住む大学生」の話だが、三分の必然性はほぼ皆無に思われる。が、面白かった。
 この、大学を舞台にしながら大学の中だけで話が終わらないところが良い。なんというか、世界が少しだけ広がる感じが好きなのかもしれない。実にすばらしい。

『杉宮遥は男前っ!』新木伸

 『GJ部』の新木先生。ひそかに期待してたのだが……。

  • 「出会って別れるまで三分間」の必然性がない。
  • キャラの喋り方が『GJ部』の紫音さんとまったく同じ。キャラのオンリーワン性が減るので寂しい。
  • 男として学校行くってかなり無理あるだろう。法律的にも無理あるし、バレてないという点でも無理ある。
  • 主人公くんが鈍感勘違い男で気付かないのは良いとして、クラスメイトの女子も気付いてないってことだよね? だとすると主人公くんが鈍感である意味は……?
  • 家出で同居もかなり無理があるだろー。

 みたいな。シリーズもののキャラなのかと思ったけど不明。
 つらいきついというよりは残念だった。

『call』佐々原史緒

 「電話をかけられる時間が三分」。
 淡い恋みたいな雰囲気。
 住所まで書いた名刺渡すのもよっぽどなのだが、主人公くんが気付いてないのが良い。でも確信は持てないから「鈍感キャラ」ほどではない。この鈍感は正義。
 そしてそれに続く、「偶然近くに来てるんだよ」と言うためだけに想定外の苦労をしてるというシチュエーションが面白い。ニヤニヤしそうになる。
 この後、彼女がすごく喜ぶ姿を見たかったが、見せずに終わっているのが憎らしい。

『彼女に関する傾向と対策』田尾典丈

 「三分間の面接」。
 愛の告白を入社面接風に扱ったやり取りが面白い。
 『三分間のボーイ・ミーツ・ガール』は恋愛と面接を誤解させるやり方だが、それよりは気が利いている。

『三分間のボーイ・ミーツ・ガール』井上堅二

 なんか捻ってきてるんだけど、どうもなぁ、う〜んって感じだな。
 この、すべてを無かったことにする終わり方ってのがまず好きじゃないし、楽屋落ち自体もちょっと寒いものがあるし……。
 この本は明かに企画モノで、ある意味「お遊び」で、それゆえ本気で書いてる先生は何人いるんだってレベルだと思うけど、これはあまりにもやる気が感じられないよな。
 どうにも素人くさいというか、どっかの賞の一次落ち二次落ちくらいの「書いた本人だけが楽しんでる」作品を読んでる感じがする。
 ネタバレ前提の感想だけど、何が「三分」で「ボーイ・ミーツ・ガール」なのかは伏せておく。


  • 全体的にやる気とか熱といったものはあまり感じられない。肩の力を抜いて書いてる感じ。「三分で考えた」んじゃね? って作品もわりとある。
  • ラノベらしいノベノベしたキャラが登場するものの、ショート・ショートの長さだとキャラを立てるのが難しそうである。単なるアニメ・マンガチックなキャラにしかなっておらず、これで「萌える」とかは基本ない。
  • 面白かった作品は、『お湯を注いで』『トキとロボット』『ロイヤルコーポあさひの真実』。
  • 次点。印象に残ったり、読んで損しないかなという作品は『詰め込み教育〜』『ガチで人生が決まる面接〜』『三分間の神様』『5400万キロメートル〜』『QとK』『call』『彼女に関する傾向と対策』あたりか。
  • 何が気に入ったかってのは、人によってけっこうバラけそうではある。
  • 「三分間」の必然性を持った作品が本当に少ない。「一〜二分」でも「三〜四分」でも成立するじゃんって作品ばかり。こうしたお題がある場合、やはり必然性を伴った作品に対し芸術点として高い評価を与えるべきだろう。
    • その意味においてもやはり白眉は『お湯を注いで』だ。しかし「三分」であることに納得を持たせるやり方ってあまりない気がするな。