『SHIROBAKO』感想 〜コミュニケーションで見るSHIROBAKO〜

SHIROBAKO 第8巻 (初回生産限定版) [Blu-ray]

 P.A.WORKS。監督:水島努。2014年10月〜2015年03月。


 面白すぎたー。これはさすがに何か書いとかなー。
 現時点ですでに2周はしたし、話数によっては4、5回以上見てる気がするし、まだもうちょっと見そうな気がするくらい面白い。


 昔まだ深夜アニメなんて主流じゃなくて、作品の数自体が少なかった頃好きだった作品を何度も見てたのを思い出す。それ以来ぶりってことはないんだけど心情的にそのくらいの勢い。
 もちろん他の作品も再生しだしたら2回目でも3回目でも面白く見れはするんだけど、本作は再生する前から「また見たいなー」って気持ちが強いんだよね。
 この感覚は『あずまんが大王』や『よつばと!』で体験したやつだ。オチやあらすじは知ってるんだけど、また見たくなる。なぜかというと、筋じゃなくて、印象に強く残ってる部分部分を「また見たいなー」って思ってんだよね。12話で本田さんが「妥協したくない」と熱く語るシーン。ずかちゃんが「私もその内みんなに追い付くウメ」って言うカット(17話)。宮森が背景美術大倉の不在を知り「携帯をお教え願えますか?」と焦りながら尋ねる声の演技(18話)。エリカ様が演出髭仙人の逃亡を阻止してアゴ「ん」と指図する部分の表情(21話)とか……魅力的なパーツそれ自体を見たいなーって思わせられる。で、もちろんそのパーツを見る目的で見始めて、結局全部見てしまうわけだけども。
 中にはあんま見たくないシーンや見るのかったるいシーンもあるけど、全体的に見たいシーンが多すぎる。良いパーツが多すぎるんだよな。まさかこんなに自分に合う作品だとは思わなかった。


 で、本作の伝えたいことって、アニメ制作という仕事のやりがいや面白さ、全員で協力して何かを成し遂げる達成感の素敵さみたいなものだろうし、テーマもその辺りだと思うんだけど、サブテーマとして「コミュニケーションの大切さ」ってのも語ってる。その辺りの描写が徹底していてすごく面白かった。



 まず、トラブルや状況悪化のことごとくがディスコミュニケーションに端を発している。
 1話で、原画が上がらなかったことをタローが報告せず対応が遅れたり、5話の作画orCG問題にて、タローが伝書鳩としてまともに機能せず、誤解が生まれ事態が大事になったり、朝礼の重要さが説かれたり(17話)、「ちゃんとコミュニケーションとってほしいです。瀬川さんたちと」(21話)なんてセリフがあったり……。2クール目からの原作者との問題も同じくコミュニケーションの問題だ。間に出版社を挟んだやり取りで相手の顔が見えずやきもきさせられる。直接会って話したいのに電話はおろかメールすら間接的なやり取りしかできない。
 また、普段はなかなかに有能な宮森が珍しくたしなめられるのも同じところ。
 本田さんには「相談してくれていいからね」と言われ、ナベPには「スタッフを変えるのなら電話でもメールでもいいから一言連絡してくれ」と言われる。報・連・相が十分でなかったからである。


 逆にコミュニケーションが上手くいっている例は、宮森たちアニメ同好会出身の5人の関係だ。この絆の強固さは興味深い。
 途中、多忙によるすれ違いや、各々の仕事の順調さの違いからこの5人の友情にヒビが入り仲違いする展開を予想した人は多いだろう。が、結果は見ての通り。そんなこと一度もなかった。
 それはもう恐ろしいくらい密に連絡をとりあい、不仲フラグに芽すら出させず潰していく様は、「お前ら何週目だ?」と言いたくなるほどの徹底ぶりで、カタストロフとは真逆の妙な爽快感すら感じさせられるほどだった。
 まず、最序盤。にわかに忙しくなりつつある宮森を見送りつつ、絵麻が電話でずかちゃんと会話。ずかちゃんは「日曜に会う約束、まだ生きてるよね?」と確認。5人が定期的に会うことを重要視しているのがわかる。
 その他、「わざわざかけなおしてくれなくても良かったのに」のセリフに見られるように、彼女らはメールに対して電話をかける。携帯を持っているときにメールがきたら、メールを返すのでもなく、家に帰ってから電話するのでもなく、「すぐ」に「電話を」かける。
 さらに、会えなくて情報を共有できなかったら「みーちゃん先輩が仕事のことで悩んでて……」と他の仲間が代わりに伝えるし(10話)、やっぱり「今度集まろう」と言って実際に集まる。「今度」が先延ばしになることもない。忙しくても極力集まる。
 メールより電話、電話より実際に会うということを、これ以上ないほど徹底して実践している。そのことをどれだけ重要視しているかが伺えるだろう。
 それに、ライターの舞茸しめじから女子高での喧嘩について訊かれ「対人スキル高いなぁ」と言われる通り、彼女達はなんだかんだでコミュ力が高いのである。


 そして新人原画の久乃木愛。最初は「なんだこのキャラは?」と思った。
 視聴者のストレス・ヘイトを減らすべく、オーディションに口を挟む三馬鹿や編集者に対し、妙な口癖を付加したり、コミカルに描いたりするのはわかる。しかし彼女はそのようなキャラとは訳が違う。
 実在の人物をモデルにしたり、生っぽいトーンの話し方をしたりして現場のリアルさを描き出そうという本作の作風から一人大きく外れるあくの強いキャラ付け。こいつだけ『アイシールド21』並のデフォルメっぷりである。片言で意思疎通とか小結じゃねーか。
 でもべつにこのキャラは「萌え」の新機軸を模索しようとして生み出されたわけじゃない。公式サイトの人物紹介にあるように「コミュニケーションが苦手」という要素こそが必要なのである。
 このキャラは、「コミュニケーションが苦手でも、伝えようとする姿勢が大事」「伝えようと努力すれば伝わる」「必ずだれかが耳を傾けてくれる」ということを言うためのキャラなのである。
 22話『ノアは下着です。』はそれをよく表しているし、そこがサブタイトルになっているのはやはり少なからず強調したい部分だからだろう。
 木下監督も同じだ。彼も自分のイメージを上手く伝えるのが得意ではない。でもそのことで大きなトラブルにならないのは彼が必死に伝えようとしており、その気持ちに応えた周囲の人間が彼の言葉を汲み取るからだ。
 2話のキャラ(あるぴん)に関する解釈も、作って欲しい曲のイメージを伝える時も、声優さんたちに挨拶をする時も上手くは言えてないのだが、そのことでトラブルには発展しないし、周りの人間が助けてくれる。


 そういうわけで本作、仕事において報・連・相が大事だよーと言っているだけではなく、もう少し広い意味でコミュニケーションについて語っている作品でもあるのである。
 失敗する時は連絡が足りてない。上手く行く時は連絡がいっている。12話で宮森が菅野監督のところに行くとき、夜鷹書房の尾之上さんが電話してくれてるのとか良いよね。振り返ればこの作品、電話するシーンがめっちゃ多い。
 ちなみに電話シーンで通話先の相手の声のある・なしにも注意し、その演出意図について考えてみるのも面白いかもしれない。
 遠藤さんが奥さんと話すときは、電話ごしの奥さんの声が聞こえる。尾之上さんが菅野監督と話すときは聞こえない。木下監督が脱走してアフレコ現場に向かった際、ナベPと話す本田さんの声は聞こえず、ナベPの「――ぇっマジッ!?」だけが突如聞こえる形になっていて笑える。


 あー、本当おもしろい作品だなーコレ。次に感想書くならその時はテーマを設けず好きに雑感でも書き散らそう。