『働かないふたり』 〜いまいち乗りきれなくなってきた〜

働かないふたり 10 (BUNCH COMICS)

こうして筆を執るのは随分久しぶりな気がする。お久しぶりです。
昨年から見るアニメが減っていき、現在はほぼまったく見なくなった。
小説も読まなくなり、マンガはたまにレンタルするか、Web作品を読むか、という程度。
単純に興味が薄れたからであり、このことに関してふがいないだとかは思ってない。
そういう漫画読み・アニオタのプライドのようなものはない。


本作はそんな中めずらしく読んでいるWeb作品だが、正直に言うと惰性である(楽しませてもらってはいる)。
もちろん嫌いではないし、肯定的な記事だって書けるのだが、単行本も今は買っていないという状態だ。
最新167話時点での感想であり、読んでる人向けの感想である。
雑な書き方になる。


本作は作者の人柄がうかがえるような「優しい日常系作品」になっている。
ニート兄妹が主役で、サブキャラに社会のはみ出し者、上手く社会に馴染めなかった人がいるが、暗さや深刻さはない。
日常のギャグネタがベースにあり、脇役たちとの交流が描かれる。
もう一つの軸として「兄の"人間できているエピソード"」があり、平行して描かれる。こちらは単行本のおまけ漫画でも過去のエピソードとして描かれる。
そしてよくある日常系作品と同様、縦軸(読者の興味を引き牽引力となるような変化を伴うストーリー性のある部分)に恋愛要素があり、少しずつ進行していく。


さて、物語作品において「特定のキャラが褒められると自分のことのように嬉しくなる」ことがある。多くは読者の誰もが憧れるような格好いいキャラではなく、視点人物寄り、あるいは引き立て役のキャラである。
「あんま目立ってないけどコイツも実はすげぇんだぜ」的に評価されるとそれが自分のことのように嬉しくなってしまうやつだ。
例を挙げるなら、『トリコ』の小松、『マリア様が見てる』の福沢祐巳、『ダイの大冒険』のポップなどである。『ドラゴンボール』の悟飯やクリリンなんかもそうした要素を含んでいるかもしれない。あとは『スラムダンク』の小暮を始め各チームのレギュラーになれてない奴らとか……。


要は、頑張ってるけど芽が出ないとか、カッコイイ天才になれなかった地位の低い「弱キャラ」が、そうした強キャラに高く評価されたり、一矢報いたりするのが気持ち良いわけである。


で、本作の兄の「人間できているエピソード」はそうした仕掛けのはずであり、最初はわりと気持ちよく読めていたと思うのだが、ここしばらく気になっているのが、「コイツ、べつに鬱屈とか抱えてないよな」ということである。
本作のテーマの一つに、社会的に欠陥であり弱点である「働いてない人間」という属性を持っていたとしても、清い心で正しい行いを積み重ねれば物事は良い方向へ動いていきますよーみたいなのがあって、少しずつ進行するストーリーはそれに説得力とリアリティを持たせるためのものであると理解しているのだが、そもそも兄は「わざとニートやってるだけだよね」という……。


もちろん確定ではないのだが、どうやらそんな感じのようであり、
少なくとも人とのコミュニケーションに自信が持てないとか、社会でやっていけそうにないとか、大きなトラウマを抱えているとか、そうした後ろ暗いコンプレックスのようなものをまったくといっていいほど感じない人間なのである。
ニートであったとしても自分を肯定し、自信を持って生きている人間なのである。


だとするとこれはただの、弱者の皮を被った超絶有能完璧人間だ。
だからそうした目で見てしまうと、兄の「人間できているエピソード」はいまひとつ共感できないし、嬉しくもならない。
物語作品においてキャラになんらかの弱味を持たせるのは読者の共感を呼び好意を抱かせるための常套手段だが、その弱味が(おそらく)偽物とあっては、「良いところ」「すごいところ」を見せられても嫌味に感じてしまうのである。


10巻のAmazonレビューにこういうものがあった。

巻末の作者の日常はいらないかなと思います。作品の余韻が消える上にどうせよくある自分はあまり女性と縁がないから、からの結婚しましたオマケ漫画まで描くのが目に見えます。漫画だけ純粋に見たいなあ。

兄がわざとニートやってるだけの完璧有能超人だとすれば、理由はどうあれファッションでダメ人間をやっているわけで、この種の「裏切り」と同じようなものになりはしないだろうか。
大学受験に失敗した旧友が優等生だった兄の現状を知り、ホッとする(救われる)話があったが、兄が実は失敗したわけではなかったのだとすれば滑稽に映ってしまう。
もちろん兄がわざとニートでいるのだとすればその理由は妹のためというのが最有力だし、すばらしい人間であるのには間違いないだろうが、弱点を持たない彼の「"上げ"エピソード」を見せられてもあまり嬉しくならなくなってしまった。「お前が素晴らしい奴なのはもうわーかったよ!」という感じなのだ。
兄はやろうと思えばいつでも社会復帰できるだろうし、人生どうとでもうまくやれそうすぎる。


本作を手に取った人は、少なからず「"ダメ人間"が立ち直っていく姿」を期待していた部分があると思うのだが、その文脈の中で描かれているのが実は"ヒーロー"であったという点にうまく乗りきれていない次第である。
表向きは冴えない昼行灯だけど実は……というタイプのヒーローだったとしても、それならそれとして「ニート」以外に感情移入させる部分が必要になってくるのではないだろうか。