『ぶるぶる人形にうってつけの夜』再考


今夜はパラシュート博物館へ

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※S&M・V両シリーズ作品に関する重大なネタバレを含みます。








本話には二つの謎がある。一つは、タイトルにもなっているメインの謎、"ぶるぶる人形"について。
もう一つは、作中で明かされることのないオマケ要素的な謎だ。前者は作中で答えが明かされるが、こちらは明かされておらず、その答えを知るには読者自身が考えるしかない。
そしてこの謎はS&Mシリーズ未読者と既読者の間で少しだけその形が異なる。
すなわち、S&M未読者にとっては単純に『"フランソワ"の名前』であり、
既読者にとっては『西之園と名乗る"フランソワ"が=萌絵であることは間違いないだろうが、何故、"建物の形"というヒントで"萌絵"ということが解るのか』という謎だ。
問題は決して難しくないのでこの答えは簡単に解る。
作中で周った建物の形がそれぞれ"M"・"O"・"E"となっており、順番に並べると『"MOE"="モエ"』と読める。
そこでS&Mシリーズ未読読者は、「ああ、フランソワの本当の名前は"モエ"という名前なんだな」と思えるし、既読読者は、「ああ、なるほど、これで練無にも正しく名前が伝わるって訳ね」と思える。


が、これは実はミスリードだ。正解ではない。限りなく正解に見えるが、違う。
本話の凄いところはココ――作中で明かされない謎を考え、「あ、なるほどねー、スッキリした」と思った読者を騙しているという点にある*1
つまり、簡単にたどり着けるダミーの正解を用意しておくことにより、解らないと思わせていない、騙されていることに気付かせていない。敗北感を与えずに騙している。憎いことやってくれるぜ。




さて、という訳で、フランソワは西之園萌絵の叔母、睦子だった訳だが、とするとラストの「建物の形、対称だったでしょう?」の意味が謎めいてくる。
森先生が『今はもうない』よろしく、読者に対しミスリード仕掛けて睦子を萌絵と思わせようとしていたというのはいいのだけど、睦子が練無に対しミスリードするかのようなことを言うのは何故だ?
睦子のこの台詞のせいで練無は建物の配置図を思い浮かべながらラーメンを啜ることになった訳だけど、それで睦子の名が解ることはない。そればかりか、あたかも建物の形が名前のヒントであるような言い方をすれば、練無は誤解し、「ああ、彼女は"モエ"という名前なのか」と読者同様に思ってしまいかねないのに。


これは睦子が、「貴方(練無)が名前を教えてくれなかったからやっぱり私も教えない」とばかりに、意地悪をしたということになるのだろうか。
あるいは、「私の名前も対称なの」程度に留めたってだけなのかもしれない。MUTUKO*2
いずれにしても練無は"ムツコ"の名を知ることはできないよな。
しかし、線対称にも点対称にもならないのってF・G・J・L・P・Q・Rを含む人だけだから大半は対称っぽい。

*1:とは言え、本当の正解は解る筈のないものなので仕方ないことではある

*2:これ、"MUTSUKO"だとSだけ点対称になってしまうな