『家庭教師ヒットマンREBORN!』感想 〜リボーンが面白くなってるよ編〜


家庭教師ヒットマンREBORN! 40 (ジャンプコミックス)
 タイトル通り……というわけで、自分でも俄かには信じられないことだが、なんと最近のリボーンが面白い*1
 これまでの本作と言えば、扱うべきテーマや扱ってほしいイベントに対してシリーズ最初こそいい感じに的を絞っていながらも微妙に外していくというダメな作品だった。
 たとえば、「自分がマフィアであることに対してどう向き合うのか」というテーマ。
 未来に行って自分たちの将来を確認したり、ボンゴレ一世の記憶を辿ったりとテーマを描く為に必要そうな、期待させる設定で新シリーズが始まるものの、終わってみるとあまり納得のいく展開にはなっていなかった。
 『獄寺くんがダメダメのツナをボスと認めて慕い付いていく理由』とかのテーマに触れた時も同様で、せっかく面白い部分を扱っているのに腑に落ちるような描きではなく消化不良の感は拭えなかったし、他にも不満は山のようにある。
 それが今回の話ではピタリとうまくはまっているのである。


 さて、もともとアルコバレーノという赤ん坊の謎に迫る今シリーズのテーマには興味をそそられるものがあったが、本作が面白くなったと感じたのは復讐者の赤ん坊に「アルコバレーノはどうあがいてもいずれ死ぬ」「今の戦いのなかから次のアルコバレーノが選ばれる」という情報を聞かされてからだ。これ自体はどこかで聞いたことのあるような吸血鬼・ゾンビ的負の連鎖設定だが、悪くはない。敵対者である復讐者たちの行動理由「円環を断ち切るためにチェッカーフェイス暗殺」にも一定の理解を示せそうなところもいい。
 この時点ではまだ、「お、ちょっと面白いかも」程度だったが、話が進むにつれツナ君がリボーンと違う考えを持ってリボーンの手を離れ、自らの意思で動き一人立ちし始めるというのはまさに本作に描いて欲しい展開だったし、その自主的に行動したツナ君が全員に一目置かれ、信頼されてるというのも読んでいて気持ちいい部分である*2
 リボーンとツナの関係性はもともと『ドラえもん』に酷似していたが、今回の話は『さようならドラえもん』だ。こういった師弟ものとか保護者ものとかだといずれは教え子が師を驚かせる成長し、その手を離れ、自分の意思で旅立っていくのが美しい形だと思うが、本作も正にその形をとっているし、『ドラえもん』と同設定の本作を面白くするならこの方向こそが正道だった。かなり気持ちの良い部分だと思う。


 付け加えて、ツナくんがマフィアとしての責任云々じゃなく「リボーンに死んでほしくない」という卑近で個人的な理由で戦いを決意するところも良かったし、忘れられがちだった京子ちゃんたち女子キャラがツナくんを支えようとし、ツナ君もそれを必要としたくだりも気持ち良かった。


 それに、アルコバレーノの謎、敵の動機、主人公の動機など、話の筋的には少年漫画の勘所を押さえた絶妙さがあると思っている。
 作品を面白く感じさせるため、感情移入を促進するためにはシリアス展開でのクオリティの高さ(敵をムカつく奴にしたり、どれくらいの危機かを演出したり)が問題になることは常識だが、だからといって単に深刻にするのでは少年誌の在り様や理想に反すると思っている。青年誌でやれという話だ。
 たとえば「(緊張感を出すために)キャラを殺せ」という風潮があるが、そう単純ではないのではないか。テーマを描くために必要なシリアスならまだしも、そうでない場合、むやみやたらに深刻さを強調してもテーマに乗っ取ってないからつまらないし、読者の負担になるだけだからだ*3。そういう観点から今回の話のこの筋はなかなかの塩梅ではないかと思う。


 そしてさらに、最近では「死ぬ気弾」なんてものまで復活していてこれまた熱い。ギャグではあったが最初期のあの死ぬ気モードで問題を解決していく様はたしかにカタルシスがあった。あれが上手い具合にシリアスと融合し、ギャグではない形で復活している。まさにREBORN。
 これまで読むのがきつい時期もあったけどやめずに読んできて良かったなと思える展開。「うぉぉおお! メチャクチャおもしれー!!」と興奮するほどではないが、それでも十分だ。
 とにかく、一度は低く評価していた作品が途中から化けるという、面白くない作品を途中で切りがちな自分にとってはレアな体験をさせてもらったためうっかり興奮している。なのでここで控えめにおすすめしておきたい。
 前シリーズまでを読んで「つまらない」と思ってた人は多いかもしれないし自分もその一人だったが*4、その辺は積極的に忘れてやろうという気にもなる。というか忘れていい。前シリーズまでは設定的強キャラをたくさん出して今回の話に必要な頭数を揃えるためのイベントだったと思えばいい。


 できることならこのまま綺麗に終わりを迎えてもらいたい。

*1:そう思って下書き書いたのが5月くらいだったのにもう10月とかなってたので早すぎて笑う。いや、笑えない。

*2:好感度の高い行動をとっている主人公や味方が褒められたり評価されていたりすると読者は自分が褒められたかのごとく気持ちよく感じるもので、これを露骨に狙っている作品は割合多い。が、一応読者の納得が必要なので好感度の低い主人公が褒められていると逆に気持ち悪くなりもする。俺にとっては『NARUTO』がそう。

*3:そして時にはギャグになってしまう

*4:特にvs百蘭あたりの、「シリアスなギャグ」的なおふざけ感(マグマ風呂、安易な口癖・語尾でのキャラ付け、天から顔出しとか)は嫌いだった