森博嗣『僕に似た人』


地球儀のスライス (講談社文庫)
地球儀のスライス (講談社文庫)

まあ君のお母さんは、「誰がそんなことを言った?」と怒ったような顔をしたので、僕はびっくりしました。
「誰が、シュンちゃんの頭が悪いって言ったの?」もう一度、まあ君のお母さんが言います。

※本話+Vシリーズに関する重大なネタバレがあります。




初読時から引っ掛かりは感じてて、叙述を仕掛けられてる違和感はあったのだけど、どうやらシリーズ番外に当たる作品らしいと言う情報を得て再読。そうした情報や、「森博嗣は他シリーズとリンクするような仕掛けを書く」ということを知ってから読むと叙述の内容が少し想像できて解けやすいと思われる。
さぞかし衝撃的であるかのようにラストの文で「二十一階」とか書いてる意味が解らなかったからなぁ。
ただその4ページ後――『石塔の屋根飾り』2ページ目に「二十一階」の表記があり、今思うと解りやすくされてたんだなと気付く。おまけに「部屋が空いているようだったぜ」とまであるから、気付いた人が見れば確信が得られるってことなんだろう。


と、言う訳でだ。『僕に似た人』の主人公の少年視点での"まあ君達"は"西之園萌絵と暮らす面々"だったと。
とても歳をとっていて白髪で、いつもにこにこしていて黒服にネクタイで仕事に出かけず台所からケーキを運んでくる"まあ君のお父さん"は執事の諏訪野だ。
とっても綺麗で若く、いつも仕事(大学だが)に出かけている"まあ君のお母さん"は西之園萌絵だ。
学校に通わず、立派な大人で、アイスクリームを食べず、ハンカチで汚れた手を拭いてもらい、萌絵にキスをして、別れの際にも口を開かなかった"まあ君"は西之園都馬だ。
"とうま"で"まあ君"、"そうへい"で"へっ君"。……気付かんなぁ。
そう言えば、「二十階に住む主人公君の家が二十一階に住む人の家に挨拶に行くものか?」というのも気になっていたのだよな。お隣なら解る話だけど。
これは、二十一階に住む西之園がそのマンションのオーナーだったからだったと。それが解ると不思議ではなくなる。あースッキリ。


で、何が良かったかと言うと、西之園萌絵だ。シリーズで犀川といる時は大人っぽく感じられなかったけれど、本話主人公君の視点だと本当に素敵な人だもんな。言葉も説明も丁寧だし、好感度上がる。本話自体の面白さもぐっと増した。
一番好きなのは上記台詞のくだり。『自分で自分のことを馬鹿だと思ったり、決め付けて、可能性を潰すようなことはするべきではない』ってのは森作品の底流にある考えだと思うけど、こういうのに触れると、森作品読んでて良かったなと思う。