街 〜運命の交差点〜


過去の未プレイ・未読名作をやってみようキャンペーンにより実施。
428 〜封鎖された渋谷で〜』も出ている2009年。10年以上前の作品を今更クリア!(プレイしたのはPS版です)


総評

  • 面白かったかと訊かれれば、まぁ面白かった。が、名作と感じるにはそのシステムがあまりに有名になりすぎてて衝撃は感じられず……。いや、よく出来てるのだけどさー。予備知識なければもうちょっと興奮できたかもだが、予備知識なければやってなかったであろうことは間違いない(クソゲーに見える)。当時から実写ゲームというのにはそれほどの抵抗があったんだ。
  • 『発売から11年が経った2009年でも、ゲーム雑誌『ファミ通』の「読者の選ぶゲームソフトTOP20」の上位に毎週入り続けている(Wikipedia)』ってマジか……? そこまでの衝撃はなかった。でもこんなテキスト書くくらいには楽しめたっぽい。


実写であること

  • 実写に関してはすぐ馴れ、楽しめるようになる。寧ろシルエットモードは邪道だとさえ感じた。表情という情報があるのもでかい。
  • 役者陣が多彩。有名どころからはダンカン・竜雷太、声優では雪乃五月谷山紀章、そして中村光一柴田亜美、現在有名になっている窪塚洋介伊藤さおり北陽)など。殆どの役者が無名の中、バラエティに富んでいて中々楽しいことになっている。動画での演技を要求しないというポイントが可能にした幅広さだろう。
  • "オタク"という役を演じてもらう際、そうでない人にそれらしい格好や振る舞いをしてもらうのは問題なかろうが、"デブ"を演じてもらうには本物の"デブ"にやってもらう他ない訳で、役者さんはどんな気持ちで演じているんだろう。と妙な気を使う。自分とオーバーラップせざるを得ないよね。演じるだけで傷付いてしまうぜ……。
    • と思ってたらそれは北陽伊藤さおりだった。見たところしっかり演技できていて株上昇。Wikipediaの本人プロフィールに『"笑っていいとも!"でダイエット企画が組まれたが成功せず』とあり、(失礼だが)笑う。
  • 隠しシナリオ「青ムシ抄」が辛すぎてプレイできず。文章も辛ければコミカル過ぎる絵も辛い(何故かこれだけイラスト)。アレだけ苦労して出した隠しシナリオがコレかよ。この辛さ、未プレイ者には解るまい。既プレイ者は同情してくれ。


システム

  • TIP
    • 本作では特定の単語や文章に注釈が付いており、難解語に対する辞書的役割・世界観の説明や細部補足の役割を、本文の邪魔にならないように果たしている。地の文を減らし、ノベルゲームらしくするのに一役買っており、素晴らしい。
  • プレイに差し障りのあるバグとか
    • 分岐・ZAPポイントを指定してロードするも、シーン最初から表示されるポイントあり。
    • ザッピングにより一部シナリオを飛ばしてしまえる(飛沢陽平シナリオへ移動したらまだ登場していないユキと喫茶店に行くシーンに)。
    • 犯人名入力シーンは分岐点扱いされず、直接飛べない(が、そこは12ものエンドへ分岐するシーンであり、繰り返し通らねばならない)。
  • 操作性
    • ロードに時間がかかる。その他全ての反応が鈍い。
    • DISC入れ替えがたるい
      • 二枚組ということで、DISCの入れ替えが必要。あんなに短い高峰厚士シナリオですら分割されているのはザッピングシステムの所為か。バッドエンド集めでDISC入れ替え。短編の高峰厚士シナリオでDISC入れ替え。辛い。少なからずプレイに水を差す。
    • 逐一セーブの選択肢が出る。"バッドエンド"でも"つづく"でも、セーブ選択肢が出るのだが、セーブするorしない⇒メモリーカードのスロット指定⇒上書き確認⇒つづけるor終了と4回選択しなければならず、うざい。
      • そしてそれが、×ボタンでキャンセルできず、わざわざカーソルを動かし"いいえ"を選択しなければならない。
        • 面倒なのでセーブなしで続行⇒主人公選択画面で×ボタン押したら未セーブのままタイトル画面に戻ってうぎゃー!
          • そこは×キャンセル効かすのかよ! 『セーブしておりませんがこのまま終了してもよろしいですか?』と訊けよ!
    • バックログ表示時のTIP表示ができない。
    • エンディングがスキップできない
  • プレイ時間が表示されない
    • 3〜40時間くらいプレイしたのかな。わかりません。
  • シナリオにおけるシステム
    • シナリオの整合性
      • 選択肢を誤ると爆弾爆発でバッドエンド、正解だと「実は爆弾ではありませんでした」となる桂馬シナリオに代表されるように、因果関係のない筈のものが選択肢により変化してしまう。青のコードを切ろうが赤のコードを切ろうが、爆弾でなければ爆発はしない筈だ。『弟切草』『かまいたちの夜』時代ならまだしも、整合性に気を使った本作でそこを無視してしまうのは、たとえギャグであれ萎える。98年ってまだそんな時代だっけ?
    • バッドエンドが多い
      • 隠しシナリオをプレイするには100ものバッドエンドを見る必要があり、きつい*1。そして結末が同じにもかかわらず、選んだ選択肢によって違うエンドと区別されてしまうので、違う選択肢を選び全く同じエンドを見なければならない始末*2。全ての選択肢を選んで欲しい、全てのテキストを読んで欲しいという欲求は強制するとプレイヤーの負担になる。本作は少し"ゲーム"であろうとしすぎだ。『ひぐらし〜』の登場まであと5年半。


シナリオ


TIP効果もあり、あっさりとした文章なのだが、終わりまでもがあっさりしていて消化不良感が残った気がするものがいくつかあったな(牛馬、バッドエンド系)。


雨宮桂馬『オタク刑事走る!』
暗合解読あたりから嫌な予感はしていたが、ラスト付近がかなり偏執的アナグラムに彩られており、清涼院流水に感化されたとしか思えない*3
暗合やアナグラムに対しては「おお! 凄い!」となるより「どうでもいい」という気持ちの方が強く、辛い。
一番期待値の大きいシナリオだったが、「ご都合主義が目立つ」「必然性が感じられない」など、陳腐な探偵小説という印象。技術系という特性を持たせたのは良かった。


牛尾政美『The wrong man 牛』
これと馬が一番面白かったのだけど、一番面白かった作品二つがメイン脚本家のものじゃないってのはどうなんだ?*4
高峰隆士にもプロの格好良さがあったけど、こっちにもある。
こういうのって結局は元の状態に戻るってパターンが多そうだけど、ヒロインも交換した形になったな。牛尾は良いけど馬部は良かったのか?


馬部甚太郎『The wrong man 馬』
何? 結局役者は辞めちゃう訳?
そして後日、陽平の結婚式で秋葉雄三と顔を合わせている訳だが、秋葉雄三は高峰綾を巡り牛尾と軽く鞘当てしてた訳で…………何もなかったのか?
こいつと牛尾は花火シーンもないし、もうちょっと後日談が見たかった。


篠田正志『七曜会』
悪事を働いているのにどこか爽やか。七曜会のメンツも憎めないし、脅される側もどこか笑える。得体の知れない『七曜会』という設定も面白い良作。
格好悪くもあり、格好良くもあるという正志のキャラは良いよなぁ。実に主人公的。


市川文靖『シュレディンガーの手』
「困難な状況を乗り越え、目的を達成できるか!?」という振り(自意識と無意識の戦い)で、負けてバッドエンドではなく不条理なデッドエンド。と、その決着のつけ方に消化不良感の残る一品。
狂気的・文学的な雰囲気は嫌いじゃなかったが、8人のシナリオの中、一番最初にプレイしていたのでこの中ではつまらないと感じていたのかもしれない(つまらないのを先に読む)。


飛沢陽平『で・き・ちゃっ・た』
苦手なタイプの作品かと思いきや、実に基本に忠実なエンターテイメントしていた作品。主人公は苦労させなきゃいかんねとつくづく。
妊娠が嘘じゃないのも秘密がバレるのも解ってはいたけれど、熱出した子どもを別の浮気相手と看病する展開は読めず。そのシーンやラストの呼び止めシーンはちょっと感動。格好良かったね。存外悪くないシナリオだった。しかし陽平視点だとヒロイン達がうざい……。


高峰隆士『迷える外人部隊
心情描写で読ませる系のハードボイルドシナリオ。
プロは格好良いよなぁ。
ラストは、脱走を許さないレジョンに暗殺されたってことか。泣ける。
ハッピーエンドシナリオがあるならバッドエンドもなくちゃね、ということだろう。


細井美子『やせるおもい』
コミカルなギャグ。内容も単純で安心して読めるシナリオ。気が付くと後のお楽しみって感じで後回しにして読んでた。良作。


青井則生『青ムシ抄』
辛すぎる。読めません。どうしてこうなった?


高峰厚士『花火』
これと『迷える外人部隊』の高峰家のシナリオは回想音楽が良い。
過去の思い出が蘇るシーンでその音楽流されて泣きそうになった。

*1:バッドエンドの数は全122種。更に「金のしおり」にするには全てのエンドを見る必要あり

*2:東京ラーメンを食べても鴨南ばんを食べてもデブエンドなのに区別される。しかも選択とエンドに因果関係はなく、エンド自体は全く同じテキスト

*3:『コズミック』は96年9月発売、本作は98年1月

*4:メインは長坂秀佳、本話と『馬』は山崎修