2013年01〜03月期アニメ感想 2 『僕は友達が少ないNEXT』

 なんかすっごい長くなった。


僕は友達が少ないNEXT 第2巻 [Blu-ray]

 あー、ちょっとわかった。本作の一つのポイントって、「友情と恋愛感情が一緒くたに存在している」ところにあるんだ(はじめから「青春ラブコメ」と謳っている)。
 言葉にすれば当たり前だけど、今の今まで言語化できなくてどうも切り口に困ってた気がする。ホント、今更かよという感じ。
 つまり、友達友達と言っていながら、実質的には「誰が小鷹と付き合うの?」という恋愛要素もしっかりあって、事態がややこしくになってる。全員が同性であれば「自分達はもう友達じゃん! バンザーイ!」チャンチャン♪ で終われるけっこうシンプルな話だと思うんだけど、そうじゃないんだよね。

 そして恋愛要素があるからこそ浮かび上がってくる本作の目指すべきエンドというものがある。
 どういうことか。まず俺の主観になるけど各キャラについてまとめた以下を見て欲しい。


  • 星奈
    • すでに全員と友達のつもり。でも夜空とはもっと仲良くなりたい。小鷹は異性として好きなので恋人関係になりたい。
  • 理科
    • 小鷹に性的なアプローチをかけているので好きなのかと思いきや、最終回での叫びは「友達が欲しい」だった。しかし小鷹に言い寄られれば満更ではないだろうし、友達関係の次のステップとして恋人関係を考えている可能性はあるだろう。自分達はもう友達だと思っており、「隣人部」というサークルも大事に思っている。
  • 幸村
    • 小鷹を異性として気にかけているかもしれないが、ただ傍にいられれば良いと思っている。友人関係に悩んでいる様子はない。小鷹の舎弟というポジションを得た時点である程度満足している。「隣人部」は無くなって欲しくないだろうが、もし無くなっても関係ない。自己完結している。
  • 小鷹
    • 「隣人部」の存続が第一で「この関係を壊したくない」と思っている。それは自分自身を差し置いても優先される。恋愛感情は持っていないように見える。
  • 夜空
    • 小鷹に執心しているのは確かだが、「友達になりたい」のか「恋人になりたい」のかは不明。どちらかと言えば後者に見えるが「恋人になりたい」というよりは、「自分が小鷹の一番でありたい」と言うところだろう。それに加え小鷹以外の人間は邪魔だと考えており、「独占欲」があることが窺える。「自分には小鷹がいて小鷹には自分だけがいればいい」と考えている節があり、小鷹に「自分と同じ」「昔と同じ」であることを望んでいるようにも見える。


 つまり、サークル内に「友人関係を築こうとする意思(隣人部を壊したくない)」と「恋愛関係を築こうとする意思(小鷹と付き合いたい)」という二つの欲求が発生しているわけだ。
 しかし作中言及されていたように、ここで誰かが他人を無視して恋愛関係を構築してしまうとサークルが壊れてしまう。これはちょっとしたジレンマだ。
 なので、本作の目指すべきゴール、クリア条件は、「サークルを壊さずに恋愛できる場の構築」にある。それが形成される前に恋人関係を築いてしまうと「隣人部」が壊れてしまう。それは多分、夜空以外の全員の望むところではない。
 これは主人公くんが誰か一人を選べば済む通常のハーレムものに比べるとハードルが高い。恋愛競争をしつつも仲間うちの誰が不幸になってもいけないわけだ。ゆえに作品として少々深みのあるものになっているような気がしないでもないが、抽象的に言うと「友情と恋愛の両立(どちらも諦めたくない!)」というありがちな話かもしれない。


 ではどうすれば「サークルを壊さず恋愛可能な場」を構築できるか。それは恋愛関係を築く前に、全員が友達関係になることである。

誰が障害か

 幸村は最終話で言っていたとおり、誰がどうなろうと小鷹の舎弟として傍に居続けるだけという目的がきっちり定まっており、ほぼ自己完結している。もちろん小鷹と恋愛関係になりたいかもしれないが、最低限舎弟でいられればよく、小鷹が他の誰かと恋愛関係になっても「隣人部」を壊す立場にはならないだろう。
 理科と小鷹は最終話で契約にも近いほど明確な友人関係を結んでおり、今後小鷹が別の女子と付き合おうが友人関係は壊れないだろう。星奈も理科ほど強固な友人関係を結んだわけではないので今後なんらかのイベントが上積みされることも考えられるが現状でも理科に近い状態にあると思われる。恋のライバルだとしても「夜空を邪魔だと思ったことはない」奴だ。
 したがってやはり、問題は夜空なのである。

「剥奪」の意味

 『ラブライブ』終盤でラブライブ出場+廃校阻止という目標が剥奪されたように、物語作品には当人にとって大事と思われる事柄を剥奪することで物事の本質を問いかけるような場面が少なくない。ついこの間読んだ『サクラダリセット』2巻にも、「好きな相手の手足が無くなっても好き? 口が利けなくなっても? その辺の石ころと同じ姿になっても?」と思考実験的に理由を剥奪していき「好き」の強度を問いかけるシーンがあった。


 本作では、正ヒロインっぽい立ち位置だった夜空の正ヒロイン(優位)性がガンガンに剥奪されていく。
 自分が小鷹と幼馴染だったと明かしても関係性に変化は無し、周囲にバレた時も結局「あーそーだったんだ」程度の話になり、反対に星奈には許嫁・幼馴染・周囲にカップルと思われているといった要素が超展開気味に付加される。本来夜空のものだっただろう友人関係を結ぶポジションも理科に先を越され、夜空は「幼馴染(元友達)」という特別性を剥奪されたことになる。
 この意味は何か。
 「小鷹にとってお前は特別じゃなくなったけど、お前はまだ小鷹と特別になりたいか?」と、夜空の小鷹に対する「想いの強度」を問いたいのではない。ここでは、夜空の行動の結果こうなってしまったと見るべきだろう。つまりこれは因果の「果」だ。作中世界で非とされる行為をとったために夜空に下った罰だ。
 じゃあ夜空は何を間違えたのか、夜空の問題は何か。それは、「相手の人間関係を尊重できないこと」だと思われる。


 自分には自分の人間関係があるように相手にもまた相手の人間関係があり、それはいつまでも同じではない。常に自分が相手の一番でいることはできない。新しい場所に行けば新しい友達ができるし、時として彼女ができることもある。でもそれを受け入れてあげるのが「友達」であるというのが本作の根底にある主張、「友人観」ではないかと想像する。
 夜空にはこれがない。小鷹の一番は自分であってほしいし、自分には小鷹さえいればいい、小鷹を独占したい、小鷹に他の友人はいて欲しくない、昔のままがいい、といった自分本位な欲求があり、夜空だけが周りの人間を邪魔だと考えている。

本作における「友達」

 本作における「友達ができる奴の条件」は「相手の人間関係を尊重できること」「自分の好きな奴にこそ友人ができてほしいと思えること」であるとする。
 夜空を邪魔だと思わない星奈やみんなのために頑張れる理科は誰かと友達になれる資格を持ち、小鷹とも絆を深められる。
 小鷹だってチキンチキンと言われているが、言われるほど酷くはない。たしかに相手の告白をなかったことにして逃げるのは卑怯だし悪いことかもしれないが、それは単に自分が傷つきたくないから逃げただけではなく、相手や皆のことを考えての行動でもある。自己犠牲的に「隣人部」を残そうとした小鷹も彼女らの人間関係を尊重しようとしていたわけだ。同じような理科と友達になれたのは必然だと思える。
 マリアが小鳩の人間関係に嫉妬していたシーンがあったが、マリアにまだその自覚はない。マリアと小鳩が友達でないとは思わないが、その試練が訪れるのはまだ先の話なのだろう。今その試練が訪れているのは夜空だ。
 夜空は小鷹の悩み(友達が欲しい)を知りつつそれを利用して部を作るものの(自分は小鷹だけいれば良かった)他の人間が集まるのを拒んでいた。自分のことだけを考え、小鷹の身になって考えてあげることができなかった。
 夜空の企みはすべて裏目に出てしまうが、それは夜空の行為が本作世界のルールでは悪だから、上手くいかなくて当然なのである。その結果どうしようもない鬱屈を抱え旅に出るしかなくなってしまったのだろう。
 これは、目当てのキャラとの関係性構築だけに執着し、他のキャラとの関係を疎かにしたためバッドエンドになってしまった第5話での乙女ゲー話が示唆していたところでもある。
 他の関係性を大事にできない奴は一番欲しい関係性も得られないとかなんかそんな感じの教訓が法則化した世界なのである。

「見えたぞ、エンディングが!」

 「隣人部」というサークルを壊さず各々が自由に恋愛をするには、恋愛関係を構築するより先に、誰かが小鷹と付き合うことになっても大丈夫なほど強固な友人関係を築かねばならない。
 前述のとおりこれは夜空以外クリアしていると見ていいだろう。
 で、夜空。
 夜空は、小鷹の今の人間関係を認めなければならない。小鷹の中で自分が一番でなくてもいいと思えるようにならなければならない。
 それができて初めて夜空も自分の友達を持てる。小鷹とちゃんと友達になり、星奈ともちゃんと友達と認められれば真の「隣人部」が完成し、それが本作のハッピーエンドだ。
 その後、小鷹が誰と付き合うかは些細なことだし、おそらく描かれることはないだろう。そこから先は個々が妄想すれば良い。


 ……というのが現時点での想像である。全然違うかもしれんけど。当たってた場合、夜空を変える具体的な方法は三期をお楽しみにといったところか。俺としてはとりあえず『ドキドキ!プリキュア』でも見せたらどうかと思う。
 ヨゾーラ「ホントは小鷹と二人がいいけど……我慢する!」*1

余談

 最近のラブコメやハーレムものを見てると、どうも主人公を好きな女の子同士を仲良くさせようという動きが目立っているように思う。『ToLoveる』や『ニセコイ』もそうだが、何より『俺妹』だ。
 多分女の子が傷つくのが嫌だとかドロドロさせたくないとか、その辺の動機があるのだろう。こういう、「みんなが幸せ、みんなで幸せ」みたいなとこを目標にしてるのが今の作風だよなー。
 だけど、遠慮するだけならまだしも『俺妹』レベルにわけわかんない話(譲り合いっぽい感じ)になるんなら『らんま』やら『月姫』みたいに爪牙むき出しでガッツリ奪い合えよという気もしてくる。
 むしろそっちの方がスッキリ爽やかなんじゃね? と思うが、そうしたものは古くなっているし、話を膨らませ難いという短所があるのかもしれない。




  • 夜空と星奈がいれば隣人部は大丈夫って言ってたけど、あのサークルはやっぱり小鷹中心になってるよなぁ。小鷹は部を守ったつもりでも小鷹いないと人来なくなるよね(なってた)。
  • 本作のヒロインに順番を付けるなら、夜空、星奈、理科、幸村の順になるだろう。もちろん「誰が小鷹に近いか」ではなく、物語力学的な順位、シナリオに必要な順位だ。で、どうも本作は幸村というキャラがいなくてもいいレベルで利きが悪い。もっとそれなりに強く「友達が欲しい!」とか「小鷹と付き合いたい!」とか思うキャラの方が本作にはふさわしいと思うのだけど、そうじゃない上、いまひとつ何考えてるか解らないので「コイツいなくてもいいんじゃ?」って感じになってる感ある気がするしこうやって考察した時の座りが悪すぎる。
  • 遊佐ちゃん何アレ、可愛いんだけど。
  • 乙女ゲー回での理科が可愛かったなー。「その点私はハードル低いですよ」のとこ、キャラがコミカルに動いて、それに合わせて声の演技も抑揚が付いていて、もちろん髪型および作画も良い。それにあの程度の下ネタは逆に好感度上がるだろう。
  • とかその辺があって、理科が一番可愛い気がしてきた。福圓美里さんの演技いいなぁ。

*1:17話ね