料理作品感想会 2 『ネイチャージモン』/『食戟のソーマ』/『山賊ダイアリー』

ネイチャージモン(1) (ヤングマガジンコミックス)
 これも料理ものではなく、グルメものだね。ちょっと毛色が違うね。
 しかも本作、主に虫とりパートとグルメパートに分かれてるからグルメ漫画とも呼びにくいんだよね。でもそのグルメパートがけっこう面白いんだよなー。


 ダチョウ倶楽部の寺門ジモンを「ネイチャー」とか言いだしたのは『やりすぎコージー』というTV番組で、そのとき俺はただ笑ってただけなんだけど、今になってこの作品読んだら寺門ジモンは凄いなーって。わりと本気で尊敬できる人間だなーって思った。本作でもジモンは「困った人」的な扱いや描かれ方をされてるし、ほとんどの人は「変人」として見るのかもしれないけど。


 ときに、「たくさん本を読んだ方がいいのか、本なんか読まない方がいいのか」って命題があり、それに対してはわりと意見わかれるとこがあるじゃないですか。本はたくさん読むべきだという意見はまぁわかるものだけど、『書を捨てよ町へ出よう』的な言い分もある。要は、本を読むことは「他人の意見に耳を傾け見分を広めること」であり、町へ出ることは「実践し、実感を得ること」なのだろう。本を読むだけじゃ実感を伴った経験って分からないもので、イソップ童話『ろばを売りに行く親子』みたいな具合にその場その場で流されるだけの人間になってしまうだろうし、ならないにしても得るものはないだろう。啓蒙要素のあるビジネス書やお笑い芸人やミュージシャンのサクセス本、それ系の新書なんかが最たるもので、読んでる時こそ分かったような気になるものの、意外と自分の身になっていないものだ。著者がその体験を通じて確信したことでも体験してない読者には信じられないものだし、けっきょく本読んだだけでは人間なかなか変われない*1。だから、本だけに頼って、本で知識を仕入れることを第一に考えてしまうのって必ずしも良いことではない。それは、ここ最近批判的に言われてる、「攻略本見ながらプレイ」と同じなんだよな。経験を通じて得られる「実感」って、大事なものなんだよね。何の話だ?


 俺は最近までその辺のことがわかっていなかったんだけど、わかってから読むと、この人はスゴイな、と思える。『やりすぎコージー』なり本作なりを見た人ならわかるだろうけど、この人、めちゃくちゃ実践型の人なんだよね。本を読むか読まないかは知らないけど、タイプとしては読まない系。行動派。完全に自分の理論で体鍛えたりしてる。「わざと雨に打たれる特訓」とか「わざと徒歩で長時間歩いて熱中症にかかってみる」とかわけわかんないし、子どもの修行かよと思うんだけど、「自分の限界を知るのは大切なこと。自分の限界を知らない奴は多い」という理屈はすごく腑に落ちる。だいたい、そういうことを知らない人達が急性アル中で倒れたりしてるわけだし。
 で、自分で考えて行動した結果、そこで間違えても、失敗してもいいわけだ。正解を教えてもらって上手く立ち回ろうとするよりずっと良いわけですよ。それは、失敗していた方が後々得をするからなんてことじゃなく(もちろんそれもあるけど)、なによりそっちの方が「自分の人生を生きられる」から。「自分で考えて自分で選んだ自分の人生を生きる」ということの価値は、説明しにくいけどわかる人にはわかるものだと思う。逆に、周囲を気にしたり真似したりしながら上手く立ち回って上手に生きて、恥のない人生を送れたからってそれに何の価値があるのかと。そんなふうに思える人は本書を楽しめるのではないでしょうか。


 そんなわけで、グルメ漫画なんだけど、単に実在する名店を紹介しているだけの作品じゃなく、タイトル通り「ネイチャージモン」の作品なんだよね。この人の価値観人生観が感じられる。そしてそれがなかなか魅力的で、料理の方も魅力的に見えるという。
 料理の方がついで、みたいな文になってしまったけど、実際そうかもしれない。いやでもホントに料理もおいしそうだから。それにここで紹介されている料理はその店が潰れでもしない限り100%の再現度で食べられる。この点はグルメ漫画の良いところだ。





食戟のソーマ 1 (ジャンプコミックス)
 否定的に見ている作品。
 現在のジャンプはスタートダッシュにさえ成功すれば1〜3年ほどは連載が保てる状況であり、本作もそのレールに乗った作品だと思うが、逆に言うと、軌道に乗っただけで、それほど面白い作品であるとは思えない。自分の中では『べるぜバブ』と同じあたりにカテゴライズされてる。良いスタートダッシュがきれたのは、洗練された絵の上手さと一発ネタとしては機能したエロ演出あたりがでかかっただろう。


 しかし本作は一言で言うと、「体裁だけ整った作品」であり、ドラマ的な面白さはほとんどないと感じている。
 いかにもな主人公や、わかりやすい高慢お嬢様ライバルなど、キャラは少年漫画らしく、またキャラ萌え的な要素も備えているのだが、どうにも薄っぺらい。とくに主人公はいただけなくて、どういう性格かを説明する際、「少年漫画の主人公っぽい性格」と言うのが一番伝わるようなキャラになっている。困ってる女の子がいれば助けるし、勝負の後は爽やかに言葉を交わすし、努力家で負けず嫌いだし……というのは少年誌の主人公としては合格なのだろうけど、テンプレで味気なく「お前のオリジナリティはどこなの?」と思う。いちおう、「失敗を恐れず、失敗を次に活かす」というキャラづけはされてるのだけど、それだけでそれほどキャラが魅力的に映るわけでもないし、さほどフィーチャーされてないしそんな失敗してないし際立ってるわけじゃないし、テーマとして扱うにも陳腐にすぎる(扱い方の問題か?)。


 そしてもう一つ良くないのが、料理&料理描写。バトル系料理漫画らしく、まず食べられないだろう派手な料理がそろい踏みしているが、一つ一つの料理描写があっさりとしていて実にもったいない(美味しそうな料理はある)。カタルシスもなく、印象にも残りにくい。これは演出の問題と、展開の速度を重視しすぎた結果だろう。ジャンプの連載作品では打ち切りを恐れるあまり展開を急ぎ過ぎて面白さが減っているタイプの作品が珍しくないのだが、これもそのタイプだ。
 あと本作は『鉄鍋のジャン!』における大谷日堂的リアクション芸人がいないのでカタルシスに欠けるというのもある。バトル系料理漫画における「敵」の役割比重を、料理人より審査員においた『鉄鍋のジャン!』はそこがすご偉い。本作も、キャラの立ったライバルを出すより、キャラの立った審査員を出すべきではなかったか。


 否定的な意見にあまり筆を割くのもなんなのでこの辺で。料理ではなくエロで引きつけようとしたり、料理描写があっさりだったりキャラも薄っぺらかったりで、全体的には熱量が少ないというか、情熱のなさを感じてしまう作品なんだよな。小奇麗にまとまってるだけじゃつまらない。田所恵vs四宮あたりは良かった気がします。





山賊ダイアリー(1) (イブニングKC)
 「猟生活始めました」な実話エッセイ漫画。
 猟師っつったらおっさん〜じじぃを連想するとこだけど作者とそのグループのメンバが若いんだよね。若い奴らで固まって自給自足したりしてるから冒険感がある。『十五少年漂流記』的な。だからその辺の設定勝ちというか、設定からして魅力的だし(実話だけど)、憧れる人は多いだろうと思われる。一人ならきついかもしれんけど、仲間がいるとやっぱ楽しいだろうなーと思うな。
 あと『黄金伝説』内の「一カ月一万円生活」における濱口優でもあるというか、未読の人にはむしろこっちをイメージしてもらえるとわかりやすいのかもしれない。あんな感じで、獲物が取れた達成感やら豪勢な食材を豪快に食べてるとこを追体験できるものが面白くないわけないよなぁ。フィクションで言うと、初期『トリコ』っぽいか。


 「自給自足」や「プロの仕事描写」とか面白い要素はいくつかあるんだろうけど、この『ヒエラルキー逆転』要素というのは、この手のジャンルでなくても面白いに決まってるし、俺自身好きな要素なんだよね。この場合、平民が高級食材を安く入手して腹いっぱい食いまくってるところにカタルシスがあるわけで、近いところで言うと、銀座の飯屋の残飯食ってる舌の肥えたホームレス。
 それに、これと同じような話でも農業なんかだと大変そうなんだけど、こっちは獲物が獲れなくても食っていけなくなるわけじゃないし、起きてる時間のすべて割いてるでもないし、そういう、ほとんど趣味の領域にある「気ままさ」というのも良いなと思えるとこ。アウトドアとかべつに好きでもない俺ですらちょっとうらやましく思っちゃうくらい。いやむしろ、こういうことしてこなかったから憧れがあるのかもしれない。


 でも本来、「楽しさ」って都会にも田舎にも、どこにでも転がってるものだし、この人の真似したからってこの楽しさが味わえるわけじゃないんだよね。逆に言うと、誰だって自分の身近な、手の届く範囲でこういう楽しさは見つけられるし、実際そういうエッセイ漫画で売れてる人もいると思う。だから珍しい話ってだけで売れてるわけじゃないんだよな。本当に楽しんでるから面白い作品になってるんだろうし、ハンパに真似するくらいなら自分が本当に楽しめるものを探すべきなんだろう。それはそうと、こうして食材入手の経緯から描かれるとどうしても「食いたい」とは思ってしまうんだけど。


  • この人のじーちゃん。すげーキャラ立ってる。荒川弘百姓貴族』のとーちゃんと似てるな。キャラの立ち方が。
  • 絵が上手いとかじゃないんだけどスッポンの描写にはやられたね。「美味すぎて寝れない。舌がスッポンのダシを求めてる」ってやつ。
  • 調理法は一応書いてあるんだけど、作れねぇっつうの。燻製あたりは作ってみたい気もするけど。スズメの焼き鳥も店のは食えるんだろうけどなぁ。
  • 当然ながら、イノシシ食いたくなる漫画だよ。鹿も食いてー。鹿は『銀の匙』でも食ってたしなー。

*1:同じ著者の本を何度も、何年も読み続けるとかすれば話は別かも