テーマ語りとエンタメの綱引き

 先日の記事(http://d.hatena.ne.jp/Narukami/20121203)に関して、あんまりうまく言えてない&ズレたこと言ってる気がしたので、修正・補足的な内容としてもうちょっと言葉を費やしてみたい。


 まず言いたいのは、「テーマがエンタメ性に反してしまうと『ダメ』ではないが『難しくなる』」ということだ。
 たとえば、「ゾンビを爽快にぶった切りまくるのが売りの痛快アクション」で「だけどゾンビだからって殺してもいいのか?」みたいなテーマが浮き上がってくるのはなんだか上手くない。
 でも、そうしたテーマを描きたいのなら上記のような見せ方になってしまうのはやむを得ないと思うし、むしろ正しいアプローチかもしれない。だから「ダメ」なわけではない。ただ、そのエンタメ性を期待していた相手には受けが悪くなってしまうだろう。一度成功した「掴み」を敢えて外し、そこからさらに掴み、引きつけ、満足させるのは難しそうだ。


 『てんむす』を『弱虫ペダル』と比較したのはどちらも「主人公が可能性を感じさせる素人」だからだ。
 『てんむす』の天子は、大食い競技などやったことはないが食べることが好きで、大食い練習中の先輩「荒木 遊」を軽く上回るほどの量を苦も無く笑顔で食べている。
 『弱虫ペダル』の小野田くんは、ロードレースなどやったことはないが、毎日60kmの道のりを苦も無く笑顔で、しかもママチャリで走っている。
 この設定で読者が期待するのは素人である主人公が真剣に競技に取り組んできた経験者たちを凌駕する活躍を見せ、ド肝を抜くことである(特に後者は、「ママチャリでも凄い奴が競技用自転車に乗ったらどんだけ凄くなるの?」といった修業後の孫悟空を見るような期待感を膨らませてくれる)。
 エンタメを重視するなら脇目も振らずここを目指すべきであり、『弱虫ペダル』はかなりコンスタントにそのカタルシスを読者に与えていたように思う*1。それは「仲間の大切さ」的なテーマがそのエンタメ性と喧嘩していないからできたのかもしれない。
 一方『てんむす』は「真剣さと楽しさ」というテーマがエンタメ性とぶつかっている。「楽しく食べるド素人天子が他をぶっちぎる」が期待されていたであろう作品なのにテーマ的には「もっと真剣にやらなくちゃダメ? 楽しくやるだけじゃダメ?」と悩む道ができるわけだからどちらもは選べない。どちらに寄るか選択を迫られる。ここでテーマを軽視してエンタメに走るなり、テーマを上手いこと他のキャラに背負わせるなり、あるいは、「楽しめないまでも圧勝はする」みたいな内容であればまた違った結果になっていたかもしれないが、結果としてはテーマを描くためにエンタメを犠牲にして、上記ゾンビの喩えめいた状態になっていたように思う。
 つまり、「天子が活躍しないからダメ」ではなく、「天子の活躍を犠牲にしてテーマ語りに走ったのに、そこで代わりの面白さを用意できなかったからダメ」とか、そんな風に言うべきだったのかもしれない。


 でもテーマとエンタメに関しては先日の記事の副題のとおり「テーマに偏るとエンタメ分が薄れる」「テーマとエンタメは相性が悪く基本綱引きするもの」だと誤解を恐れず例外を承知の上でざっくり言ってしまっていい気もする。テーマを語ると話が「暗く重く」なりがちだし、エンタメ分は「明るく軽い」ものだと思うので。


 ちなみに、ジャンプの『クロス・マネジ』も「真剣さと楽しさ」をテーマに据えているっぽいので注目している。

*1:今泉と良い勝負、自転車で車に追いつく、新入生レースで猛追、合宿、etc……