物語分析とかについて思うこと 2

 前回(http://d.hatena.ne.jp/Narukami/20120830#p1


キネ旬総研エンタメ叢書 「おもしろい」アニメと「つまらない」アニメの見分け方


 引き続き、脚本術・物語論などに対しての感想である。
 この間に新しく『キネ旬総研エンタメ叢書 「おもしろい」アニメと「つまらない」アニメの見分け方』という前回挙げた本のアニメ版を読んだ。




 前回の記事で言いたかったことを一言でまとめると、
 「読み解き方や分析方法を提示していながらもその定義づけの精度が低く、結局は個々の読解レベルに依拠していたり、恣意性の混じる余地が残っていたりしており、人によって結果が変わるのではないか」
 という点だ。




 これを前回は「キャラクターの役割探し」という視点から語ったのだが、「構造分析」の視点からも同様のことが言えると思う。
 もっとも知られていて基本的だと思われる物語構造に「序破急」「起承転結」があるが、こんな単純そうなものでさえ「起承転結それぞれの中にも起承転結があり〜」というネスト概念がでてきたり、「この作品は時系列が前後する変格シナリオだから〜」とか「僕は起承転結ではなく起承承転結で作ってます」とか「いや僕は起転転結で作ってるんですけど一回目と二回目の「転」は違っていて〜」というような話が飛び交っているのが現状である。
 もちろん、そういったネスト構造は存在していると言えると思うし、作り手が独自理論で作るのも問題ないのだが、「この方法で読み解ける」とそれを分析に使ってしまうとこれまた上記のような問題に陥ってしまうのではないかということだ。


 読み終えたばかりということで前回と今回に挙げた本について書いてしまうが、これらの本にある「13フェイズ」という、物語を更に細かく13に分けた構成概念にも同じことが当て嵌まっている。
 いざこの概念を使って物語を読み解いた実例を見ると、「重ねがけ」とか「キャラごとにある」とか、「隠し13フェイズ」とか「実は第一話が11フェイズにあたり〜」みたいな話が出てきて、提唱されている構造通りに作られているのかどうかさえチェックしていけばいいのかと思いきや違う。そしてこの構成と違う・合わない作品がダメなのかというとそれも違っていて、「変格構成だから提唱した順番通りの進み方じゃないけどこの要素はちゃんとここにあるからOK」みたいなケースもあるわけだ。もちろん物語作品は常に新しさを求め日進月歩しているし皆一律同様な作りではないしトリッキーな作品だって少なくないから型どおりに嵌まらないことは仕方ないとも言える。
 問題は、その構成に合わない部分や判断に迷う部分があった時に、『「合わないからダメ」なのか、「一見ダメに見えるが実は良い」のかを判断する術がない』ということだ。この点に関する詰めが不十分なのでその論理や整合性にいまいち納得しかねるミステリを見た時のようにどこかスッキリしない気持ちになる。
 やはり、「人によって結果が変わるのではないか」と思う。


 こういったものを排除し極限にまで客観性を高めるには、「個々の資質によらず誰にでも機械的に良し悪しを判別できるような理論を作る」しかない。もちろんそんな絶対的な理論なんて作れるはずもないが、少しでも信頼性の高い理想的な理論を追い求めていくことはできる。まだまだ発展途上だ。

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[余談]

  • 物語理論に関する不満を簡潔に言い換えると、「例外処理が甘い」ってとこかな。ただ意欲的な作品は総じて「何か新しいことしてやろう」という試みるものだからそこに手が届かないのはちょっと辛い。
    • ただやはり一番不満に思ってるのは上記の、「合わなくても良いのか合わないからダメなのか」の判断ができないところ。
  • 上記の本に関してはこの人のAmazonレビュー(http://www.amazon.co.jp/review/R2C2RCWENWQGKB/ref=cm_cr_dp_title?ie=UTF8&ASIN=4873763924&channel=detail-glance&nodeID=465392&store=books)の、特にラスト付近がかなり同意できる。というか、言いたいことを言われてる。ある要素が描けているか否かは二極化できるものではなく程度問題だろうし、「○○リマインダーにはこういうものがあります」という一覧もないのでその場その場で作り出してるように見えてマジギャグに見える。そして、そもそもその構成概念の正当性に納得がもたらされていないという点も問題だろう。
  • 前回挙げた本の「まどマギ」作品分析。まどかの内面問題が「自分が破滅する運命を知らないこと」ってどうなんだ。未来に起こる出来事を知らないことが自身の成長で解決すべき精神的欠陥ってのは納得しかねる。まどかに内面テーマがあるとすれば「何もできない自分からの脱却」とかだろうし、最後に成長してる以上「本編中で変化する人物(=主人公)」と言えるのでは? とすれば「試練」「破滅」フェイズがないのは作品の不備だとも見れる。
  • 「好き嫌いとは別に良し悪しを判断しろ。ちゃんと評価しないと売れる要素だけで塗り固められたダメな作品ばかりになるぞ」って主張には同意できる。好きだから全肯定、嫌いだから全否定って人が多いよね。
  • 書きながら考えてみて、物語分析というのは前回挙げた「精神分析」や「裁判」に似てるなーと思った。前者に関しては俺が論理的ではなく信用できないと思ってるからであり、この喩えがピンと来ない人もいるだろう。後者も結局は事件ごとの裁定を個別にしていくしかなく、六法全書や前例があろうと杓子定規に判断できるものではない。検事や弁護士の力量に左右されることがあるという点。「証明する」というより、「納得させる」ものになっている点(印象)が似てる気がする。