択 〜キャラクターはラジオボタンで作られる〜


 『ゆるゆり』における綾乃の「罰金バッキンガム」で一人だけ笑い堪えてる結衣の構図ってどっかで見た気がするなぁと思ったら、『苺ましまろ』の美羽と千佳だった。あの作品も美羽のギャグが一人だけツボにハマって笑い堪えてる千佳という図がある。わりと他では見ない関係性なので、こうして気付いてみると『ゆるゆり』がパクってるように思えてくる。でも友達の友達みたいな遠い関係にもかかわらず意外な関係性が生まれているという点で『ゆるゆり』の方が面白いかな。


 ギャグを言うキャラを作った場合、自然、そのキャラのギャグがウケるかスベるかも考えなければならない。キャラ付けが濃く、属性を付加してキャラを立てようとすることの多いアニメや漫画の創作ではこうした『択』を迫られる場面が多くあるだろう。
 たとえばよくあるキャラ付けは、『料理(美味いor不味い)』『酒(酒豪or下戸)』『歌(プロ並みor音痴)』などだろうか。「このキャラがこうしたらどうなるか」や「このキャラを立てるにはどうするか」を考えるとき、この選択をしなければならない。そういう話だ。


 だがこれらの要素、特に料理でキャラを立てるのはベタながらもかなり苦しいんじゃないかと思っている。なんせ可愛いor美人キャラの弱味(チャームポイント)を見せる手段としてうんざりするほど使われてるにもかかわらず、基本的には「見た目(美味そうorマズそう)」「味(美味いor不味い)」の組み合わせ四種しかないのだ。発展性もほとんどないように思える。正直飽き飽きしている。口に含んでから、「これは……」みたいな"溜め"を作られることにもうんざりしているかもしれない。
 そんなベタパターンから発展させたり逸らしたりしてわずかに手を変えられれば良いのだろうが、それがそうそう容易くないからこその『択』なのであり、容易くないからこそベタになっていくのだろう。
 そんなわけだから料理の巧拙でキャラを立てようとするのはかなり苦しいのではないかと思うのだが……しかしそうは言ってもやはり女の子の女の子性を出そうとすれば"料理"には足を踏み込まざるを得ない。それならばもう仕方のないものとしてある程度割り切り、演出面(リアクションなど)で面白くしていく道を模索するしかない。
 ちなみに最近の作品で印象に残ってる良かったケースは『これはゾンビですか?』のハルナの料理だ。玉子焼きしか作れない、弁当箱の一段目も二段目も水筒の中まで玉子焼き、中毒性の高い麻薬でも入ってんのかと思うようなクラスメイトのリアクションなどなどギャグと工夫が重ねられ面白かった。可愛いけれどちょっと常識のない迷惑な女の子がちょっとだけ問題はあるけどすごく美味しくて心のこもってる料理を作るという、割合まっとうな手段で可愛さと好感度を増しているところも良い。一見「とんでもない料理なんだろうな」と思わせるバランス感覚も絶妙だった。


 それ以外では最初に挙げたように、「一人だけ違うリアクションをするキャラを置く」というのが安定だろうか。ギャグの場合、多くはスベるタイプだろうが、そこに「一人だけウケる奴を置く」、「たまにウケる」などの例外を作ると幅が広がって少し面白くなる。おまけにそれは、リアクションをする側のキャラのキャラ立てにもなる。
 『レベルE』の岩田キャプテンに一人惚れている藤井マネや顔色一つ変えず乾汁を飲み干す『テニスの王子様不二周助がそれに当たるだろう。にしても不二はキャラの個性と個性がぶつかった時になるべくしてなったという感じだな(大抵のことは涼しい顔でこなすキャラだし)。


 長々述べたがそんなわけで、ある種の特性でキャラを立たせようとするとき作り手の自由度は低く、ラジオボタン式に選択しなければならないのである。


【料理】
見た目も味も良い
見た目は良いが味は悪い
見た目は悪いが味は良い
見た目も味も悪い


【ギャグ】
ウケる
スベる
スルーされる


【酒】
悪い(暴れる、絡む)
泣きor笑い上戸
下戸


【車の運転】
上手いが荒い、スピード狂
荒い、下手、事故りそう、よく事故る


【食】
大食らい


 というかそもそも、こういった諸々も換言すれば、「ギャップを出すか出さないか」というただ一つの択に集約される気がするな。