乙一『箱庭図書館』感想

箱庭図書館
 乙一が別名義で活動していたことを最近知って驚いた。まったく知らなかったから小説の仕事をはしていないと思っていた。
 それはそうと本作はネット上でも公開されていた乙一名義の作品である。読者から送られていたボツ原稿を乙一が修正して新たな作品として蘇らせる的な企画(http://renzaburo.jp/8528/)から生まれた短編集であり、根幹のアイデア乙一のものではないのだが、やっぱり乙一の作品だと感じた。
 というか、やっぱ乙一良いなーって思った。ネットのは読んでたんだけど。


 『ワンダーランド』は殊能先生の某作品を連想させる。原型となった投稿作品のタイトルが『鍵』だったのだが、まったく同じアイデア・同じタイトルのものが星新一の作品にもあり、引っ掛かった。これって犯罪行為だと思うけど、ロマンだよな。
 『ホワイト・ステップ』が面白いという人が多数観測された。これはネットでは読めなかった作品なのでネットで見ていたという人もぜひ本を手にしてもらいたい。間違いなく本短編集の白眉である……とは思うのだが、俺は他の作品もかなり楽しめたのでこれが特別という感じはあまりない。


 投稿作があって*1、リメイク作品があって、リメイクに至る思考も書いてある。ビフォーアフターみたいなもんか。本作はその「リメイクに至る思考」が貴重だと感じた。作家がどうやってこうした作品にしたかというのを知る機会はあまりない(雑誌のインタビューなどを読めばあるのかもしれないが)。(以下ネタバレ)
 そこではじめて知れたことだが、『実は小説を見せていた事実はなかった』とか『店長も悪いことをしていた』『全然好きでもないのに付き合っている』あたりに感じた乙一らしさが意識的に書かれていたのだというのは興味深い点だった。乙一のオリジナリティは全部が天然であるような印象があったんだよな。

*1:これは本にはなくネットでしか読めない