2011年10〜12月期アニメ感想 1

 年も明け、一月経ってから今更のアニメ感想。
 今期は万人一致でNo1になりそうな目玉(まどマギみたいの)こそなかったものの、ものすごく豊作だった印象。こっちの精神状態が良かったのかもしれないけど、こんなにたくさんのタイトルを見たのも久しぶりかもしれない。とは言っても12タイトルくらいなんでアニメ初心者の領域なんだけど。
 



たまゆら〜hitotose〜

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 一話がすごい良かった。父親いない&引っ越しとかそれだけですごい切ない。演出とか、泣き虫の友達のキャラ(ちひろ)とかも良くてこりゃすげぇと思ったんだけど、そっからだんだん下がってしまって、最後はなんだか頑張って見た感じになった。『カレイドスター』だの『ARIA』だので佐藤順一監督作品は好きだと思ってたけど……。


 4話くらい見たあたりで「怖ぇ」ってなったのだけど、この作品、優しすぎだよね。主人公のぽってやちひろやまおんは気弱で引っ込み思案で友達作るの苦手……でもそんな人でも嫌な思いせずに生きてられる世界。なんだけど、なんかそれ故に儚さとか脆弱さとかを強く感じてしまったんだよな。この作品世界はストレスレスを目指して作られてるように思うんだけど、見ていて「ちょっとでも嫌な奴が出てきたらものすっごい傷ついちゃうんじゃないの?」って、すごいハラハラしてしまってた*1。それが逆にストレスになってた気がする。それを踏まえて思い返してみると『ARIA』ってよくできてたんだなーって思ったな。『ARIA』にもこういう感覚はあったんだけど。


 ほら、灯里はちょっと天然っぽくてズレたこと言う奴で、場所が場所(作品が作品)ならいじめに近いことされてたっておかしくないようなキャラで、そういう「何だお前?」って言いたくなる部分があるじゃないですか?(急に語りかける) で、灯里って感受性が強いし人に何か言われたら怒るよりは傷ついちゃう人間に見えるから、そういうことを冗談でも言っちゃいけないんじゃないかなって思わせるようなところがある。『ARIA』世界の厳しさって主に藍華が請け負ってたと思うんだけど、灯里がもし「姫屋」にいたら大丈夫かなって思うよね。
 でも『ARIA』には暁って男キャラがいて、『ARIA』の世界観にそぐわない無神経さとかがさつさとか気の利かなさとか身も蓋もなさとかがその男性性に託される形で存在してたと思うんだよね。で、暁は言っちゃうわけだ、「何だお前」みたいなことを。まず最初に「何だその髪型」って言って「もみ子」なんてあだ名つけるし、灯里が「暇な時は人間観察ですよ!」って言っても「どーでもいい」って返す。で、灯里は「えーっ!?」とか「もみあげじゃありません!」とか返すわけだけど、そこはギャグとして処理されていて、傷ついてる様子なんて微塵もない。もちろん暁には悪意はないし、本当に傷つくようなことは言わないからってのもあんだけど、それでも、「あ、そういう反応されても大丈夫なんだな」って思える。暁だけじゃなく藍華も灯里を全肯定してない。表向きだけであれ「恥ずかしいセリフ禁止!」って言う。


 本作も男の先生がそのあたりの役割を担うのかなって期待してたんだけど、あまりそうはなってくれないまま、周囲のみんなは不自然なくらい全肯定で、そこがちょっと気持ち悪く感じてしまった。なんか「優しい」ってより「甘い」って感じなんだよな。これまでの作品が謳ってきた、「友達になってほしけりゃ勇気を出して自分から言え」「言葉にしないと気持ちは伝わらない」を甘やかせて、「まぁ口笛でもおk」ってのは斬新だけどそれでいいのかって思った。


 あと、そういう道徳の教科書めいた全肯定さのせいかどこか会話がよそよそしいというか、本当に仲が良いようには感じられなかったんだよな。ちひろちゃんは他の三人と友達になってアドレス交換したけど、たった一回遊んだだけの相手とその後話すことなんてそうあるとは思えないし、この子たちはのりえちゃん抜きの二人っきりになっても会話続くのかって疑問だったし、普段たわいもない雑談をしてるところがイメージできない。今に気まずい沈黙がおりるんじゃないかってそこでもハラハラした。その点は無理にみんな仲良しにせず、「気まずい……」ってやってた『ゆるゆり』の方が誠実(?)だったように思う。


 なんか否定的なことばっか書いたけど、演出とか、良かったと思えるところもあったから見て損したとは思わなかった。あとあの写真家の志保美りほさんは完全に成長後灯里を意識させていて、『ARIA』を連想させることでさらに強くループ(継承)を意識させてるよなー。ぽっての未来の一可能性みたいな。




アイドルマスター


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 全体は良くて個人回は浮き沈みありというか、良かったり悪かったりという印象。そんな中で千早と春香まわりの話がとても良かった。
 後半はそれに引っ張られる形で盛り上がりを見せ評価もされて成功と言われてるけど、でもところどころ引っ掛かる点があっていまひとつ乗り切れない部分があったのも事実。たしかに大成功のアニメ化だったとは言えるだろうけど、それは勘所を押さえてたからであって、文句なしに傑作だと推せるほどのクオリティではなかったと思う。物語文法の洗練されてなさが足を引っ張っていてランク付けすると「B級上位〜A級下位」くらいではないだろうか。千早春香の部分だけが瞬間的に飛びぬけていた。


 じゃあどういうところに不満があったかというと、黒井社長やそれに従って悪巧みを働く面々の一面的な描きに代表されるチープさ。そして響回に代表される脚本の甘さだ。律子がプロデューサーとしていささか頼りなく感じられたのはそういった要素のしわ寄せだろう。律子の魅力はしっかりしてる性格と精神的強さ(弱さも?)だと思っているのだが、それが発揮されるべき見せ場はプロデューサーにとられ、ただただマネジメント業務などをこなしているだけの表面的にしかしっかりしていないキャラになっていた描きは残念だった(※こんなこと言ってるけど原作プレイしてません。二次創作イメージです)。


 逆に良かったのは雪歩やジュピターだ。雪歩はあんなに頼りなさそうなキャラなのに三話「すべては一歩の勇気から」の雪歩回では勇気という強さを出し場の空気を一変させた。ジュピターも視聴者視点だと汚い手段をとる黒井の嫌な手駒なのだがセンター以外の二人は敵意のない笑顔だったり765プロのアイドル達に手を振ったりとらしからぬ態度だった。社長やセンターの行動に異を唱えることはしないが、765プロを憎々しく思っている気配は毛ほども感じない。彼ら的には765プロの方が汚い手を使っている相手であるという点を踏まえてみるとなかなかすごい格の高さである。


 とは言えこの作品にはリアリティのある厳しさは求めていない人多数だろうし俺自身もある種のぬるさを期待していたところはあるので黒井社長の一面的な描きは逆に安心感を与える要素であったかもしれない。
 ……そんな具合に気になること、不満に思うことがなかったわけではないが楽しく見れたのは間違いない。




未来日記


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 バトロワもの。のはずだが、始まってみればほとんど完全に1st&2ndVSその他という、悪の組織から一人ずつ刺客が送られてくるような構図で、全然バトルロワイヤルじゃないよな。テンポは良いけど一つ一つのエピソード自体にはあまり重みが感じられない、癖のない小粒な良作といった感じで、サンデー系列なのかと思ったが違った。でも俺の中のイメージと一致する。


 見どころはというとやはりヤンデレヒロイン我妻由乃だろう。このキャラはこの作品のかなり重要な位置を占めてて、作者自身このキャラの描写にはかなり力を入れていることがわかる。「本当に危険なのはアイツだ……!」なんて評されるのはこれまでは主人公の役割ではなかったか。なんかもう全部持っていく。我妻無双。
 頼りない主人公くんは割合まともな感覚を持っていて、それでいて翻弄されるタイプで、視聴者との同調を図るようなキャラだ。日記所有者たちはみな「一癖も二癖もある」と評されてはいるが、この主人公くんは設定の割に特徴ないタイプに思える。
 つまり二人は涼宮ハルヒキョンの関係なのだ。キーパーソンは完全に由乃であり、純情そうなところを見せラブコメ展開をやったかと思えば目が「くわっ!」っと開き、全身に返り血を浴びたかと思えばか弱い女の子の顔で泣いたり笑ったりしてみせる。完全にサスペンスのやり方で受け手を引き込んだり、笑わせてくれたりする。
 全体的には単調だし、ヤンデレ描写も良く言えば「基本に忠実」だけど悪く言えば「テンプレ通り」だし、未来日記取得以降全然日記書いてるシーンないのに依然未来日記の恩恵受け続けてたり、かと思えば「嘘を吹き込んでこれから書くはずの日記内容を操作した」とか言い出して「あれれ〜?」だし、そもそもお前ら未来知ってるんじゃねぇのかよってツッコミたいとこ満載だし、他にも色々納得できないとこあるし、あくまで「日記」がキーアイテムなのにサブタイトルが「携帯」で統一されてるのも腑に落ちないしでまだ視聴途中ながらそれほど面白い作品だとは思わないのだけど、この、我妻由乃のヤン⇔デレシーソーは本当に上手いと思った。
 「自分に危害を加えることはないし、すごく好きでいてくれるし、顔もスタイルも良く料理も上手い。こんな娘なら少しアレなところがあるにしても受け入れてもいいのではないか」という感情と「いや、やっぱコイツは危険な奴だ。コイツといたら破滅してしまう」という感情が主人公くんにほぼシンクロさせられた。これだけでもすごいのに、その二点を何度も行き来するわけだから偉い。こういうのって、どっちかに偏りがちだと思うんだよね。それでいてそのヤンデレキャラでシリアスもラブコメ(ギャグ)もこなしちゃうんだから万能だ。
 そして間違いなくこの娘は、後ろから目を塞いで「だ〜れだっ?」の感覚で主人公くん家に侵入してると思う。こんな行動論理が捻くれているキャラが良いキャラにならないわけがない。


 つまりこの作品は、愛のために他のすべてと戦う覚悟を持ったヤンデレ超人が文字通りに病んだりデレたりしながら無双していくという、多分そんな作品。一周して笑いながら見ていいような、そんな作品。俺は由乃の猫撫で声で笑ってしまう。




森田さんは無口。

森田さんは無口。2 [DVD]
 原作は4コマ漫画らしい。ギャグでもストーリーでもなく、ほんわか日常系だろうか。日常系にも色々種類があると思うが、昔懐かしいというか、俺が一番最初に好きになった「日常系」という感じで、その懐かしいものを思い出させてもらったような気になった。
 近年の日常系は露骨な「萌え」や「オタクネタ」要素がミックスされていて、昔好きだった日常系の雰囲気ではなくなっていたように思っていたのだ(萌え非難ではない)。とは言え本作も基本は女の子キャラ中心の作品だしOPではニャーニャー言ってるし、十分萌え系なのかもしれないが……。


 しかしあまりそんな風に感じないのは往々にして記号的に処理されてきた萌え要素を記号的には扱わず、「何故そういうキャラなのか」「どんな日常を送っているのか」というあたりを真面目に掘り下げているからかもしれない。だからこそ森田さんの「無口」というある種過剰で記号的なキャラ付けも安易で安っぽいものには感じないのだろう。系統的には「綾波」「長門」と言われても仕方ないものだと思うのだが(※1)、思い返せばニコニコのコメントではそれを一切見なかった*2。モノローグでは喋る(視聴者には脳内の声が聞こえる)のに加え「何を考えているのかわかりやすい」と言われている側面がそれらのキャライメージとは大きく食い違うからという理由も大きいだろう。そうだ、つまり、「キャラ萌え」ではないんだ。


 とかく、ストーリー性もほぼなく、ギャグでも萌えでもなく、たまに「落ちてないのに終わっちゃった!」という感想まで与える本作だが、萌えやオタクネタに走ってない日常系の良さを味わわせてくれる良作だったと思う。せめて5分くらいは見たいと思ったが。



(※1 参考:やや古いアニメ史上の無口キャラたち)


*1:「なんで「〜なので」って言うの?」って聞かれたらすごい困りそう

*2:よりインパクトのあるレイプ目の方がネタになっていたせいかもしれない