石黒正数『外天楼』
読んだ。
作品の評価はできるだけ正確にというか誠実でありたいので、べた褒めというのに抵抗があるのだけど、いざこうして書こうとしてみるとなかなかすごい作品だったなというのが一番に出てくるかも。読み返すだにそれが増してくる。
作品の評価はできるだけ正確にというか誠実でありたいので、べた褒めというのに抵抗があるのだけど、いざこうして書こうとしてみるとなかなかすごい作品だったなというのが一番に出てくるかも。読み返すだにそれが増してくる。
以下ネタバレ含む
- 最初はおちゃらけた空気が後半になり一転……ってな具合のミステリではよくある見せ方の作品だけど、ラストのシリアス場面になっても緊張感ない奴はないってのが独特。『それ町』の人がシリアス描いたらこうなるのか、なるほどなという感じ。
- キャラはタイプで描き分けてる。女刑事桜場は歩鳥だ。アリオは歩鳥の弟の猛だ。芹沢に至っては容姿から名前まで同じだ*1。で、徐々にシリアス化するこの世界においても唯一ギャグ世界の住人っぽくあった歩鳥キャラの桜場が最後までバカっぽい振る舞いを見せたままああなっちゃうのだからくるものがある。涙流れてた絵とか余計「うわぁ」なる。
- 年を取らない存在である姉ちゃん「キリエ」が利用された時系列トリックがある。
- 三話のラストに姉ちゃん+成長後の芹沢が出てきて読者を騙してくる。でも二話時点で10年後くらいの話を挿入してるからアンフェア感が薄れてる。
- というか結局二話以降は全部成長後だな。
- 三話のラストに姉ちゃん+成長後の芹沢が出てきて読者を騙してくる。でも二話時点で10年後くらいの話を挿入してるからアンフェア感が薄れてる。
- 全部繋がってた感がパない。無駄がなくて上手い。それ系の作品では代名詞として出せるくらい上位に入りそう。
- でもやっぱそれ系の例に漏れず前半はちょい退屈気味というか、「なんだよーどうでもいい事件かよー」ってなっちゃうな。
- ミステリにありがちな歪要素、「少女妊娠」を含んでいる。森博嗣の真賀田四季や、(うろ覚えだが)京極夏彦の『鉄鼠の檻』にもそんな少女出てたと思う。後半のシリアスや歪さ演出のために使われることが多い気がする。
- 要素の話をすれば、気付いたところでは「フランケンシュタイン」も孕んでいる。
- この「少女妊娠」や主人公&姉「出生の秘密」にも驚きはしたが、結局一番きたのは174P一コマ目。時系列トリックがハッキリとバラされ、エロ本探しの仲間のデブ=芹沢が判明したところだった。ミッシングリンクが繋がったというか。あの時の友人が芹沢だったことそれ自体はショッキングな内容はないけど「えっ? それでそれで?」ってなる。
- つかもう一人の友人も姉ちゃんのこと好きだったんだけど、芹沢の方は姉ちゃんが成長してないことを知っていてああ言ったんだよな。ただのロリコンと言えばそれまでだけど、これもやっぱ歪だな。
- 一話のミステリ的無駄のなさがすごい。が、最下級になりたくないからエロ本捨てるという動機はわからない。
- ラスト付近、ホラー的な描写が散見できる。その辺りが顕著だと思うのだけど、全体的に見せ方はそこまで上手くない気がする。純粋な絵の力か、あるいはコマ割り力が不足しているのか。
- ラストってすごいベタだと思うけど、雪の中を歩くお姉ちゃんが過去を回想するシーンはきた。でも姉ちゃんは姉でもあり母でもある。どんな気持ちであれを思い返していたのかと考えると……。
結論:良かった。久しぶりに良いものを読んだ。読後の虚無感を久しぶりに味わった。作者の他の本も読もう。
*1:脇役にそういう先生がいるんだけど、これ、名前まで一緒にすることはないんじゃないかって思った